食生活と身体の退化
〜未開人の食事と近代食・その影響の比較研究〜

W. A. プライス著、片山恒夫訳

第1章 なぜ未開種族から学ぶのか


未開種族のうちいくつかの種族は、文明生活を営んでいる集団が直面している生存に関わる問題と無関係に過ごしてきた。これら未開人が用いている方法や知識は、近代人がかかえている問題を解決する上で多いに役立ちうるものである。多くの未開種族は生存上の重大問題に直面した時には、ある種の予防手段を習慣的に利用してきた。

今なお残存している未開種族の中から対照集団を探し出すことになったのは、近代化した集団の中では対照集団を見出すことがむずかしいとか、すでに病気にかかっている臨床例に実験的方法を適用することによって規制要因を見つけることができないといった事情によるものである。都合のよい典型的な対照集団を提供することができるのは、未開種族の集団しかないのである。

以下の章では、私は未開の状態にある人々とその環境について述べ、さらに比較研究のために、文明生活を送る白人と接触したことのある未開種族の集団成員についても記述している。私は肉体的・精神的変化の中に現われたその接触の諸影響を記録し、また、変化した環境要因の検討も行なった。種々様々な未開種族と物理的環境を研究するには、こうした方法が必要だったのである。したがって、標高、緯度、気温、それに人種などの相違がもたらす相対的な影響を心にとどめ、また近代文明と接触した時にこれらの未開種族が示した反応の類似性に注意しておいてもらうことが、読者にとっては得策であろう。研究の目的は、たとえば虫歯とか、一般的な肉体の退化とか、顔や歯列弓の不正とか、性格の変化といった今日の近代的退化の現象の持つまさに悲劇的な事態を是正するのに用いることができるデータを収集することである。これらのデータは、人種の衰退や奇形を予防し、伝染病に対する強い抵抗力を作り、胎児期における欠陥の発生を減らすのに役立つことであろう。後者には、胎児期の脳障害が原因となって引き起こされる軽い知恵遅れから性格異常に至るまでいろいろな精神障害となって現われる精神的疾患のようなものが含まれている。

本書のデータは、孤立した各未開種族に見られる歯の腐蝕(虫歯)の感染度と、またそれと対照する意味で、同一種族の中で文明生活を営むメンバーの虫歯の感染度を示している。免疫や感染に見られる違いをもたらす環境上の相違については要約した形で示そうと思っている。これらのデータによると感染度が平均して35倍にも増大していることが明らかになったのである。未開人と近代文明に接した未開人の、骨相や歯列弓の奇形についても、両集団の相対的な発生率に関係づけ、同様な対照がなされている。

提示した適用例の多くはオーソドックスなものではないため、読者に対して安易に偏見を抱かせてしまうかもしれない。私は、この新しいアプローチが読者自身の家族、兄弟や姉妹、親戚、さらには仕事上とか、通りすがりに会った多くの人々の身体的、精神的状態を調査するのに用いられるまでは、本当の結論は保留した方が良いと考えている。この問題を研究する人は、ほとんど誰もが、我々の生殖能力の減退を示すはっきりした証拠が、私たちのすべてに現われていること、そしてそれが以前には何ら、指摘も調査もなされていなかったことに驚嘆することだろう。

様々な未開種族集団の写真から身体上の特徴に関する一つのイメージを構成することによって、あらかじめその観察結果を述べておくこと、そしてこれを比較の尺度や常態の基準として、われわれ近代人の場合を観察することが重要なのである。そうすれば、今まで考えられてきたある種の事柄、たとえば、目につくものはすべて遺伝に起因しているとか、奇形は人種の混血に原因しているといった先入観はすっかり変更せざるをえないであろう。我々の先入観通りであるなら、大家族の末っ子が一般にもっとも病気にかかりやすく、また家族の中でも顔の形がしばしば相違しているのはなぜであろうか。あるいはまた両親が近代的な食物を摂るようになると、混血のない種族においてさえ、年下の子になるほどこれらの変化が見られるのはなぜであろうか。

肉体的退化は容易に目にとまるけれども、その原因を見きわめることは困難である。特に心や性格に影響を与える脳の発達障害ともなればもっとわかりにくいものがある。それにもまして、精神的な退化を調べ出し、その原因をさぐることはさらにむずかしい。以前には精神病学者が説明すべきこととして残されていた多くの事柄が、今日では急速に解剖学者や生理学者の領域に移っている。

近代的な生活に自然にはいりこんできている過去の文化の貢献ということについては、まったくといっていい程問題にされてこなかった。先祖の知恵といったものは、いわゆる「野蛮人」の知恵に対する偏見のために排斥されてきた。読者の中には、以下の章に記されている未開人の知恵に対してこの種の反発を感じる人もいるかもしれない。

筆者は自分の主張がオーソドックスなものではないことを十分に知っているつもりだ。しかし、今日の正統的な理論というものが我々に何らの救いももたらしはしなかったことを考えれば、私たちはそれらを大自然の法則に調和したものに再調整しなければならないだろう。我々が従わなくてはならないのは大自然であって、オーソドックスだと考えられているものではない。多くの未開種族は明らかに、我々近代人よりも自然の語りかけというものを一層よく理解している。しかしその未開種族さえ、彼らが近代的な食事を採用するやいなや、近代文明のあの忌わしい害悪を分かちもつことになるのである。私の主張を裏づける資料は厖大にあって、スペースの許す限り本書にも収めている。採用した写真は、私の手元にある何千枚というネガから選んだものである。写真だけでも多くを語ることができるし、「百聞は一見に如ず」という諺もある。

私たちが未開人の知恵を、今日必要としている事柄に活用するという問題は、保健に携わる人や栄養士ばかりでなく、教育者やソーシャルワーカーにも関わっていることから、データについては専門的な細かな説明を省いて掲載している。私の研究した未開種族の多くは、何千年もの間同じ土地にあって健康を保持しているのだが、私たちアメリカ人は2、3世紀の間に、しかもある地方などでは2、30年しか経っていないのに急速に健康が衰えてきている。退化が起っている地域では動物にもそれが見られる。衰退の一途を辿っている人間は自分自身を直すことはできないけれども、今や明らかとなった未開種族の知恵を活用することによって、進行しつつあるこの衰退に次の世代で歯止めをかけたり、その世代の置かれている状態を大いに改善したりすることはできる。長い人類の歴史の中で、この近代という短い時期ほど歯や骨の恐ろしいまでの退化を人骨にとどめる時代は、他にないであろう。私たちは大自然の掟に従い、我々がうぬぼれている文化を退け、自然にもっと従順であるあの未開の文化に立ち戻らなければならないのだろうか。大自然の支配力に従った形で完全な再調整をするより他に、人類がとるべき道はないように思われる。

考えるということも消化するということと同様、生物学的であり、胎生期の脳障害の発生もエビ足〔図109、112参照〕の発現と同様に生物学的原因によるものである。それらどちらもが、祖先たるべき親たちの生殖能力の低下によって招来されたものである。さらにこのことが、主として、その人たちの不適当な栄養摂取とあまりにも期間の近接した多産、あるいは難産によって長引く出産のために起こることを、大自然は人間界の広範なできごとの中で啓示している。これらのことを考えれば、我々の引き返すべき道は明らかに指示されている。これらを解決してきた未開種族と同じように、私たちも、最初にしなければならないこととして、出産期や成長期に適切な食事を準備することができるはずだし、また期間が接近した多産や難産を規制する準備もできるはずである。うまく切り抜けてきた未開種族と同じように、私たちは危機や緊迫した事態が起こるずっと以前に、若者のための指導計画を確立し、彼らに大自然の要請を熟知させることもできるはずである。このためには家庭や学校の教育、特に高校生を対象とした大々的な教育計画が必要となるだろう。これは次章以下でとりあげている多くの未開種族の実践とも符合するだろう。

もし、ある種の監督を必要とするほど、社会的にみてひどい精神的欠陥をもつ近代社会の人間たちが、大なり小なり障害をもった親から生まれているとするなら、その責任は一体誰がとるべきなのだろうか。このようにしてつくられた社会生活に適応できない人間たちを、重苦しい雰囲気に包まれた重労働や強制を伴う生活へと送り込むことは、社会にとって妥当なことなのだろうか。肉体的にも精神的にも不具な者をつくり出すのを容認することが、果たして社会にとって正しいことと言えるのか。

反社会的な行為の中に表出するそうした歪みを、多くの未開種族が未然に防いてきたことは明らかである。もしそうならば、数世紀の経験を通じて未開人たちが発展させてきたやり方を研究し採用することによって、私たちの社会でも同様のことを実行することはできないものだろうか。

大自然の使用する書き言葉は、解く鍵を持たないとまったく意味のわからない象形文字で構成されているけれど、一度適当な解き口を得たならばそれは種族や個人の明瞭な歴史物語に変貌する言葉なのである。その象形文字は警句に耳を貸さない文明人に、種族や個人に大きな災いの来たることを物語ってくれている。未開種族はこうした鍵をいくつか持っており、近代社会にみられる多くの災いを避けて通る際に、それらをうまく利用してきたのである。以下の諸章は未開人の多くの優れた実践を記録したものであるが、それらが現在の社会に共通する不幸からいくらかでも人類が解放されるために、また文明人の末裔に起こるであろう障害を未然に防ぐために企図される計画に役立つであろうことを願って、この実践記録は書かれている。


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