食生活と身体の退化
〜未開人の食事と近代食・その影響の比較研究〜

W. A. プライス著、片山恒夫訳

第16章 未開人の虫歯予防法(後半)


私は高ビタミン・バターが脂溶性賦活剤を供給し、食物に含まれているミネラルを有効に体内に吸収するのに重要な役割を演じていると前にも述べた。これに関連して言うと、世界中の未開種族にとってバターはこれら主要な賦活剤の供給源として重要な位置を占めている。インド北部の山岳、高原地帯とチベットでは、住民はヤクや山羊のミルクから作ったバターから、これらの賦活剤の多くを補給している。バターは炒った穀物と混ぜたり、お茶に入れたり、お茶と炒った穀物とバターで作ったお粥に使用されている。エジプトのスーダンで私はナイル流域から数マイル離れた高原地帯からやって来て高ビタミン・バターを取り引きしているのに気づいた。このバターは他の地方で生産されている何種類ものきびと交換され、それといっしょに使ったりしている。またこの地域の温度は華氏で90度から110度であるから、もちろんバターは液体状であった。濃いオレンジ色は豊かな牧草地で飼育された牛から採れたことを立証している。アラブ人を含むスーダンの人々は第9章でもみたように虫歯があまりなく、ひじょうにすばらしい歯の持ち主である。また、インド北部におけるもっとも身体的にすぐれた人々はといえば、酸味のある凝乳〔チーズの原料〕を主とする乳製品と小麦や野菜を食べているパタン人である。彼らは背が高く、虫歯にもかかっていない。

おそらく、初夏の牧場に放たれた牛から採れたミルクで作ったバターはひじょうに溶けやすいということは、主婦ならよく御存知であろう。特に、深い黄色かオレンジ色で草の香りがするバターはなおさらである。このバターには、普通ビタミンAやDなどの脂溶性賦活剤が、牛舎で飼育したり、ひじょうに質の悪い牧草で養った牛から採れたバターに比べれば数倍も多く含まれている。第15章では、このようなバターがなぜ運送に適しておらず、またなぜ酪農場主は、しばしば溶けにくくなるような飼料を与えるのかについて述べた。バターを溶けにくくするための飼料はひきわりの綿の実や穀物を混ぜてつくられる。

このように、質の良くないまぐさを与えると、乳製品のビタミン含有量が減少するという例はいくらでも挙げられる。たとえば、ミシシッピー渓谷がひどい日照り続きに見舞われたとき、数千頭の牛の命を救うために水と緑のあるオハイオ州の牧場へと移されたことがある。オハイオヘ到着するまでに、綿の実と穀物を主とする濃厚飼料が与えられた。オハイオ州立大学、酪農学部のO・エルフ教授は次のように詳細な説明をしてくれた。

私は干魃に見舞われた西南、中北部の州から、1935年の秋にオハイオ州、デラウェアの北にある600エーカーの農場に連れられて来た牛の群れをオハイオに来る前に見る機会があった。ひどい日照り続きと強い太陽光線のため、牧草地には緑の草がほとんどなかった。スゲは干涸びてしまっていた。ときにはヒユ、アガサなどの植物しか牛の食べ物がない状態もあった。とうもろこしの苗は枯れてしまい、緑の植物は見当たらなかった。私が訪れた地域では、牛が特にひどい状態にあった。ほとんどの牛は眼の病気にかかっていた。

完全に干上がった土地では、実にかなりの数の牛が死んだ。そして、ときにはすでに死体が腐りかけていたものもあった。秋になってまだ生き残ったものは囲いに集められ、そして車に乗せて東へ連れていかれた。比較的状態の良い牛が集められたのであるが、それでもかなりの牛が運送中に死んだのである。

その年の前年も牧草地の収穫はあまり良くなかったそうである。それが影響して、眼の弱い子牛が多く生まれ、平原で早い時期に死んでいった。おそらく牛が弱々しかったのはビタミンAあるいは牧草がなかったからで、そのため重病にかかったが、それもつまりは干魃によって起ったものである。

貨物列車に乗せられてやって来た2800頭の牛には、この牧場でとうもろこしの茎が与えられた。この付近には9エーカーのとうもろこし畑があった。ある日のこと、この畑の囲いが午後3時に取り払われたが、なんと午後9時にはとうもろこしの刈り株や根っこが跡形もなくなっていた。これほど短時間にとうもろこし畑は食べ尽くされてしまったのである。カロチンと青草に含まれている成分とが必要であったため、私たちはまぐさと草を集めるのにかなり時間を費やした。最初十分な草がなかったので、牛の飼料用に毎日400トンものまぐさを購入したのである。穀物類を意図的に与えなかったのは、牛を肥らせるのが目的ではなく普通の健康状態にするのが目的であったからである。

牛が餌を求める要領を覚えるころ、私たちは格子作りのかいば棚をあちこちに作り、そして牛の群れの中に入り、過去の経験からビタミンA欠如によって眼が見えなくなったもの、ただれたものの数を調べた。私たちがもっとも正確に推測できる範囲では812頭(29%)が眼の病気にかかっていた。この群れから生まれた子牛157頭のうち、5割が奇形で異常が見られたのである。確かな数は調べられなかったが、たぶん実際には5割以上だと思う。もっともひどい病気になっていたのは1年半から1年8ケ月経った牛であった。病気になっている牛がどのような環境に育ったのか、個々のケースはわからないが、この群れの大半は2年間乾燥した土地にいたに違いない。
あまり重い病気にかかっていない牛は、オハイオに着いて十分牧草が与えられてから健康状態は次第に良くなっていった。特に10、11月の2ヶ月間には著しく健康になり、12月中旬までには食肉用のために屠殺されたのである。ビタミン不足の牛の乳は子牛にも人間にも十分な栄養を与えることはできないのである。

全乳を飲んでいる多くの子どもが虫歯にかかるのは、牛に良質の飼料を与えていないため、その牛乳のビタミン含有量が低すぎるからである。第15章では、ビタミンを十分に摂る方法を指摘しておいた。

今日の虫歯に関する化学的理論では、砂糖や澱粉が酸をつくり出す微生物の増殖を助長することによって虫歯が起こるというふうに、口中の一部の条件にその原因を求めている。こういった理論は、清潔な歯は虫歯にかからないといったスローガンと密接に関連づけられてきた。しかし、こういった考えは口腔衛生上、歯をバクテリアからまったく隔離することは不可能であるからそのまま実行することはきわめて困難である。もう一つ考えるべき点は、未開種族の人々はしょっちゅう糊状の食物を口にしているが、口を洗おうともしていないことである。しかし、それにもかかわらず、彼らは虫歯にかかっていない。口腔衛生と虫歯予防の学習をも含めての近代文明化を進めていると思われる未開種族の多くには、こういった健康に重要なことを教えても近代化された未開種族は虫歯に対する免疫性を失ない、虫歯がひどくなっていくのである。これらの例は今までの章においても指摘してきた。もちろん未開種族の人々であろうとも誰もが他人の事を考えて歯は清潔にしておかなくてはならない。

私は自分の臨床活動の中で、未開の知恵を試すために、とくに虫歯のひどい人を探し求めた。他の州や都市に住む歯科医師たちがそういった患者を紹介してくれた。患者一人一人の栄養を調べる簡単な方法として、唾液を化学分析し、歯とその支持骨の部分のX線写真を見、今までの病歴を聞くなどして、一人一人の食事改善法を考え、90%以上の人の虫歯が予防できたのである。歯の状態が良くなったことはX線写真とかかりつけの歯科医の報告によって確認された。しかし、手紙だけでやりとりした患者には完全には歯が良くならなかった者もわずかにいる。虫歯に対して個人によってはかかりやすい人とそうでない人があるが、普通ひじょうに免疫性の低い人でさえも、一般的に私の施した療法は永らく役にたった。

この治療の原則は、現に2800人分以上の唾液が化学分析されていることからもわかるように、何百人もの人々に適用されている。患者が食べている食物の栄養とX線写真をもとに、唾液分析や個人の病歴も勘案して食餌療法を行なったのである。その結果、ミネラル分、特に燐が食事に欠如していたことがわかった。また、虫歯にかかっている人々の場合には、きまって脂溶性ビタミンが不足していた。そのような場合には常に、補強するために脂溶性ビタミン、ミネラル分に富んだ自然食品が選ばれた。つまり、人体は無機物から直接ミネラルを吸収することができないからである。したがって、自然食品の代用として販売されているものは人体にはひじょうに有害なものであると私は考えている。

未開人の知恵を現代人に応用する場合、一つの大きな問題として性格的要因がある。アンデス高原のインディアンは高原に住む彼ら同族の人々のために、いとわず幾百マイルも隔てた海辺へケルプ〔乾燥した海草〕や魚の卵を求めに行く。しかし、私たち現代人の多くは、好ましい身体づくりのために良質の食物を探し求めようとする労をとろうとしないのである。

仲買人や中間商人、または卸売人は、バターの場合、そのビタミン含有量ではなく銘柄によって値段をつけたがる。私はある大手のバター卸業者に、人々にそれを使うよう奨めるために高ビタミン・バターを仕入れてほしいと協力を求めたところ、バターの種類によってあるいは飼料条件によってビタミン含有量が異なっていることを指摘するのをやめるようにと、あからさまに言われた。彼は、飼料条件によってバターのビタミン含有量が違うのだと思われたくなかったのである。またある大きな会社は、もし私が需要が十分大きくなるようにすれば、そういった商品を生産してもよいと言ってくれた。そういったことから、私は会社の人に、急速に成育している青草で飼育されている牛からとった、草の香りがする溶けやすいバターを貯蔵するように勧めた。カロチンの低いまぐさで育った牛、それから妊娠期間中のストレス状態にある牛は、体内のビタミンを使い果たしてしまい、良い牧草地に戻っても体が正常になるのに3-4週間かかるし、そこまですれば十分なビタミンがミルクにも含まれるようになる。したがって私は、多くの患者に、ビタミン含有量をよく調べた上でバターを購入し、貯蔵し、必要なときに出して利用するようにしてもらうように助言した。

一番効果的だとわかった食餌法は、高ビタミン・バターと同じく高ビタミンの肝油を1対1の割合で混ぜ合わせて作ったものを少量用いるやり方だった。このバターの簡単な製法は、まずバターを溶かし華氏70度で24時間保っておく。つぎにそれを遠心分離し室温と同じ液体状のバター油をとる。このバター油に同量の高ビタミンの鱈の肝油を混ぜると、どちらか一方だけの時よりうんと効き目のある食品ができあがるのである。これは、混ぜ合わせた時から2週間以内に食べなければならない。これが、アメリカのあらゆる地域で利用されたらと願わずにはいられない。この高ビタミン・バターを初夏の牧草が成長する時期に製造し貯蔵しておいて冬に食べるというような慣行さえあれば、脂溶性ビタミンの欠乏という国民的大問題を解決する上で大きな効果をあげるだろう。バター油と肝油の、この混合食品の必要量はほんの少しでいいのだ。砂糖と澱粉を減らし、とくに燐分などミネラル分の多い食物を十分にとるような献立てにして、3度の食事毎に小さじ半分とっていれば、虫歯だらけの状態をかなり抑制しうるだろう。1日小さじ1杯の量を1日2、3回の食事に分けて食べるだけで、虫歯の予防と十分な免疫性は保たれるのが普通だし、風邪にもかかりにくく、全体にかなりの健康状態を維持することができよう。砂糖、澱粉の摂取を低く抑え、胚芽や胚のついたままの穀物を新鮮なうちに粉にしたものを使ったパンやオートミールを食べ、発育盛りの子どもや大人にはミルクを加え、海産物や動物の内臓をふんだんに食べるといったメニューに、脂溶性ビタミンが強化されれば、上に述べたような結果が生じるわけである。

広範囲に虫歯に冒されている17の症例について、私は以前に報告したことがある(3)。この患者たちの腐蝕が進行し、孔の空いている数を合計すると237ヶ所あった。彼らの年齢は、12歳から20歳までだったので、歯の数は永久歯が28本だから、17人で476本である。もし、1本1孔ということなら、およそ2本に1本、より正確にいえば49.7%が、虫歯の孔をもっていることになる。この患者たちには私が、3年以上にわたって半年おき、あるいは1年おきに注意深く検査してきた人たちもいる。実際には、どの患者にも歯の検査といっしょにレントゲン検査を受けてもらった。そして3年間のうち冬と春の数ヶ月は、栄養を強化した食事をとってもらったのだが、その期間中は、新しくできた虫歯の孔は、17人合わせてもたった2ヶ所、パーセントで表わすと0.4%にすぎなかったのである。それ以前からあった虫歯がどのくらい前からのものであるかはわからない。わかっていることと言えば、すべての患者がときおり、あるいは定期的に治療をうけてきており、その内訳はたいていは1年に2回ほどだが、もっと頻繁に診てもらっていた者もかなりいたという事実だけなのである。したがって、おそらくそれらは1年以内に腐蝕してしまったのだろう。患者たちにとって虫歯が新しい問題ではなかったということは口の中に施されたひじょうに多くの歯の治療跡をみれば明白だった。だから、例の食餌法を採用する前と、その後の3年間とを比べれば、その比率は250倍ほどになると思われる。1年単位に換算すれば、その数字はもっと大きくなるにちがいない。

上に述べた17人を含めた50人の人たちに私は、短くて1年、長い人で6年の間、たいていは3年以上だったが、特別の食餌法を実施してもらったところ、新しい虫歯は全部で2本しかできなかった。1人平均28本、合計で1400本あると仮定すると、3年間では虫歯の発生率は0.14%ということになる。この50人の臨床例には、示唆に富んだびっくりするようなケースが数多くみられる。

そのいくつかを例にとってみよう。H・Fさんは、1932年10月から翌33年の6月までビタミンとミネラルを強化した食事を続けたところ虫歯は1本もできなかった。しかし、その後1934年5月までビタミン強化を中断するや、10ケ所も虫歯になってしまった。

S・Kさんは1931年以前にはひどい虫歯で、永久歯の第一大臼歯の全部が歯髄までやられているほどだった。まだ残っている乳歯も貝殻のように変形していた。その彼女も1931年12月から翌年6月まで食事を変えてみると、その間は完全に虫歯の進行が止まったのである。ところが1932年6月に肝油の特別食を止め、33年の10月まで止めたままだった。その代わり、虫歯を予防するために医者の処方に従ってビオステロール〔ビタミンDを含む油状物質〕を飲んでいた。ところがどうだろう。その10月彼女がやって来た時には、14もの虫歯が新しくできていた。そこですぐに前の食事に切り換えたところ、1933年10月から34年5月のその期間中は、虫歯の進行は完全に抑えられたのである。彼女が特別食を摂らなかった時には、永久歯の表面には、エナメル質部分の脱灰の結果できた白い斑点があったのに、食餌療法中には、この斑点がほとんど消え、以前にはもとの半透明の色には戻らなかったものも褐色に変ったのである。

前の17人のなかに入っていたJ・H君は、別の町から送られてきた患者だったが、1931年6月現在で、38ヶ所も虫歯にやられていた。さらに、実際に心臓が悪く活動も思うにまかせない状態だったし、ひどい倦怠感に'悩まされていた。ここへ来てからは、毎年、夏を除いて秋から春までずっと強化食を摂ってもらったが、やはり、その期間中は1本も虫歯はできなかった。レントゲン写真によってもわかるように、歯質の状態は目に見えて良くなった。身体のコンディッションンもひじょうに良好になったので、いまでは大学生活はもちろん、学費を稼ぐために戸外の重労働をすることもできる。心臓を心配する必要もない。自分で気がついた身体の変化は何かと尋ねると、倦怠感がなくなったうえに、以前、10時間の睡眠をとっていたときより、現在6時間寝た方が、よく休まるという答えが返ってきた。

A・Wさんも、この食餌療法を始める以前の2年間に32ヶ所も虫歯をつくっていた。この3年間は、冬と春にはきちっとこの食餌法を守り、それ以来虫歯は1本もできなかった。

懐妊期と授乳期に、母親がこの食事を守っていたときの子どもや、幼い頃、冬と春の間に同種の副食物を食べていた子どもには1ヶ所も虫歯ができていなかった。その子どももいまはみんな小学生になり、同年齢の子どもの体格に比べてずっと大きいし、学校の成績も優秀である。

一般には認められていなかったり、文献にも特筆されていない食餌療法にかかわる注意事項を、ここで是非強調しておかねばならない。肝油を含んでいる魚油を必要以上に多く摂り過ぎると、患者のなかには気分が重くなるという、ひじょうにはっきりした症状を訴える者が出てくる。空気に長く晒しておくと魚油は毒性の物質をつくり出すということは、実証済みである。動物実験による私や他の人の研究では、それらを過剰投与すれば、麻痺症状というものがすぐに起こるものであることは明らかである。心臓や腎臓に、強い構造上の障害をひき起こすのである。この点については、私のかなり詳細な研究報告がある。私の研究によれば、高ビタミンの天然肝油を同じく高ビタミンのバター油といっしょに使うと、混合した方が単独で用いるよりずっと効果的であることがわかっている(4)。この方法によれば、わずかな投与量で済むわけである。妊娠後期は別にして、私の処方量は毎日3回の食事に小さじ半分与えることを限度としている。こうすれば副作用を完全に防止できるようだ。別のところでも述べたように、魚油は空気に触れないよう小さな箱に保存しておく必要がある。悪臭を放つ脂肪とか油のビタミンAとE(5)は、胃に入る以前に壊されてしまっている(6)。

しばしば思い出すことだが、未開社会が近代社会よりも虫歯に対して強いわけではないということを裏づけるかのように、古代人の頭蓋骨にも、しばしば広範囲の虫歯が認められることもある。地球上に動物や人類が出現した時から、大自然の基本法則は働いていたことを、心に留めておかねばならない。未開種族のなかでの調査研究で私がとりわけ関心をもったのは、虫歯に対する免疫性と、食習慣を含む生活環境との両方に起った変化についての研究だった。それには研究上、対照集団として使用できるような、虫歯に対する比較的高い免疫性をもった集団を見つけ出すことが重要であった。したがって傍証に耐える資料が大いに提供される必要がある、まことに幸運なことに、この必要は満たされつつあるといってよい。今、私の机には興味深い2つの報告書が載っている。一つはA・ホイガート博士(7)のもの、もう一つはP・O・ぺ一ダーソン博士(8)の研究報告である。

この2人の著名な学者は東グリーンランドの孤立した全くの不毛地帯に住むエスキモーたちの社会で1年間過ごした。この東グリーンランドの孤立したエスキモーの虫歯の罹病率はきわめて低く、1%以下である。しかし、港町の近代的な食料品に接しているところでは、エスキモーの歯は腐蝕が進んでいた。両博士が見出した条件は、私がアラスカで調べた集団ほど都合のいいものではなかったようだ。グリーンランドのエスキモーの生活環境は、ひじょうに住みづらいものであるらしい。2人が報告している資料は、孤立生活を送っているエスキモーや他の未開種族のなかで私が得た資料と一致している。東グリーンランドは国際協定によってデンマーク領となっており、特別の許可がないかぎり、グリーンランドの地には誰も足を踏み入れることができないし、その許可もなかなかおりない。デンマーク人でも、そこには自由に旅行することができないのである。したがって、この保護領域で研究を行なった両博士の貢献に深く感謝したい。その報告書の内容については、あとのお楽しみということにしておこう。

多くの製品のためにラジオ・雑誌あるいは訪問販売を通して広告宣伝され、また度を過ぎた販売合戦を繰り広げているため、不運にも国民はまさに五里霧中といったありさまである。食品のビタミン成分を記載した信頼のおける便利な小冊子(第275号)が、合衆国農林省の出版刊行局から出ている。大自然がつくり賜うたままの食物の方が昆虫類も食べないような加工食品よりも数段栄養価の高いものであるという事実は、たえず強調されるべきである。虫も育たない食べ物で人間が育つわけはないのである。

ニュージーランド歯学評論の9月号に、同国の歯学協会のホークス湾支部を代表してH・H・トッカー氏が論文を載せているが、そこで彼が報告しているのは、ネイピアにあるフカレレ女学校に通うマオリ族の少女たちについて、私が指摘しておいたことを実際に応用してみた結果なのである。私の研究については、第12章ですでに述べた。私は虫歯の進行を抑制するための諸方策を提示したのだが、トッカー氏のグループは、その一部分しか用いていなかった。彼らが選んだ対照集団と実験集団との食事の違いは、「胚芽と鱈の肝油を1日2回小さじ山盛り分」が、あるかないかの一点を除いてまったく同じである。66人の土着民少女のうち、歯の優秀な33人を対照集団とした。残りの33人には脂溶性ビタミンが余分に与えられた。6ヶ月間で前者と比べて後者のグループの虫歯に対する抵抗率は41.75%まで上がった。しかし実験集団の栄養は、最良の結果が得られるような適切な強化がなされていたとはいえない。エネルギーや熱量の摂取量に対してミネラル分の多い食物はまったく不十分だったのである。この種の食物は、ニュージーランドに白人がやって来る以前のようにたっぷりと摂ることが、今日の急務である。

他の章で扱ってきたデータのいくつかは、虫歯やその他の身体の退化現象に直接関連しているので、ここで一度まとめておくとよいだろう。そもそも、人間は動物と同様、大自然の与える食物に適応すべく、大自然という壮大な実験室のなかで発達してきたのだから、こうした自然の食物を加工することを企てたりすれば、大きな危険を冒すにきまっている。パン屋の全粒小麦パン〔黒パン〕でも、小麦やその他の穀物といった自然のままの食物にはかなわない。機械的にか酸化によってか、小麦のなかのある種の要素が取り除かれてしまうからである。これは大問題であって、需要と供給の関係の正常化を通して穀物を生産するという、国民的要求が高まらないかぎり、食用穀物における望ましい変化は起こりえない。それは、まず連邦政府や州政府の解決すべき問題であるからである。乾燥豆などの箱詰食品は、中身の加工中に、または棚の上に置かれている間にさえ、重大な成分の変化が進行する。オクラホマ農工大学の農学試験場は1938年に箱詰食品のビタミン損耗量の測定結果を報告したが、成分の損耗は2週間以内に起こり、ある保存食品では1-2ケ月でほとんどゼロに近くなったという。

誤解の最大の原因は、無責任な人の書き物や教えである。多くの人が誤解している例には、たとえば、アルカリ性の食品だけを食べるべきであるとか、酸性食品の使用は大きな危険を招くとかいうものがある。未開種族においては、極北の地で孤立生活を送っているエスキモーの肉食は酸性だし、野菜とミルクを主体にした食習慣の他の集団では低酸性だったが、ともに虫歯を防ぐ有力な要因をもっているという点では、実際の相違は何ら見られなかった。我々の身体には、血液の中でアルカリ性と酸性の適切な均衡を維持するメカニズムがあり、これは食べたものの総量がアルカリ性になるか、酸性になるか、そのほんのわずかの差で変わるものである点を心に留めておくことが大切である。第二に注意しなければならないのは、魚油だけでは必要な量のすべてをまかなうことはできない脂溶性ビタミンが、酪農食品には十分合まれていることである。そして第三に、鱈肝油や魚油は摂り過ぎると必ず体に障害を起こすという点を忘れてはならない。肝油を輸入するときには、絶対に中身が空気に触れないように容器一杯にして送ってもらうべきだし、空けた後は小さい容器に移し換えておけば、使用期間中も酸化がそれほど起こらない。

人間の身体をつくるのに必要な食品中のミネラル分の割合をこえて、とりわけカロリーの多いのは、その銘柄とか製造法や保存法は関係なく、いく種もある甘味食品である。砂糖とメープルシロップ〔かえでの樹液のシロップ〕、甘藷からつくられる糖蜜、はち蜜には、身体をつくるミネラルはほとんど含まれていない。こうしたものを食べると別の食物の効能を損うことになる。問題は、単にこういった砂糖や精白粉の使用を減らしたり、止めたりといった単純なことではないにせよ、このこと自体はたいへん重要である。さらにミネラルやビタミンが多く含まれている食物を入手しやすいようにすることが必要である。しかし、ビタミンが多く含まれている食品の多くは、身体を形成する物質がきわめて少ないということも明らかにしておかなければならない。たとえば、燐の必要量を摂るためには、1日1ブッシェル〔35.24リットル〕のりんご、または、その半分のみかんを食べなくてはならない。同様に、燐の同じ標準量を摂るため、にんじんだったら毎日9.5ポンド、フダンソウだったら11ポンドの量を毎日食べる必要がある。ところが、れんず豆とかそら豆、あるいは小麦とかからす麦なら1ポンドでいいのである。燐の摂取を化学物質に依存する方法の利用についても、私は別の機会に論じたことがある。カロリーというものは食欲を満足させるか否かを決定づけるし、通常の場合には2000から2500カロリーほど摂れば食べたくなくなるわけだから、ひじょうに甘い果実の場合には、少量でも食生活を狂わす。しかし、2gの燐を摂取しようと思えば、マーマレードとかゼリーとかジャムの1ポンドびんを毎日32本も食べなくてはならなくなる。このときのカロリーは3万2500カロリーで、身体の機能を維持しえない量に達してしまう。

牛乳は、ミネラルを含んだ最良の食品のひとつだが、各種のビタミンも十分かどうかとなるとそうではない。研究を行なったすべての未開社会のうち、豊富な海産物にあずかっていた人たちは、ミネラル、その中でもとりわけ燐分を手軽に、しかも、十分摂っていたようだ。これはひとつには海産物(ここでは動物性のものを意味している)のなかに脂溶性ビタミンが含まれている理由からである。これはミネラル、カルシウム、燐のより効率的な効用を可能にする。虫歯はふつう他の障害を伴うことが多いのだが、そういう人が口にしている食物のサンプルを一定の手順で調べてみると、カルシウム、燐、マグネシウム、鉄分の最低必要量の半分にも満たず、脂溶性ビタミンは最低量の一部しか摂れていない人がほとんどである。ビタミンの役割は、燃料に点火するスパークを放つ自動車のバッテリーに、多くの点で似ている。タンクにガソリンがいっぱいあっても点火する火種がなかったら力は出ない。

虫歯の問題に対処するために利用できる方法は、今のところ2つある。その一つは、それにかかわる物理学的および化学的な要因のすべてを、まず詳細に知ること、それから調査研究を進めることである。第二の方法は、未開社会が教えてくれるように、この病気の予防法を学び、研究を続けていくことである。第一の方法はおもに近代人が実践しているものである。後の方法は本書にみられるような調査研究から学ぶ方法である。血液と唾液には正常な場合には歯を守る成分が含まれていることがデータからわかっている。それがあれば、酸をつくる細菌の増殖を抑え、歯の表面に起こる局部的な生理反応を止めるのである。こうした防御要因がないと、酸をつくり出す細菌は、歯の構造を破壊する酸を産生する。この防御要因をつくる源泉は、栄養摂取の方法いかんにあり、食物のミネラル分や、すでに発見されたビタミンや未知のビタミン、とくに、そのなかでも脂溶性のビタミンに直接関係している。臨床データの示すところによれば、略述した計画に従うことによって、現実にすべての人がかかっている虫歯は、予防または制御できるはずである。これは他人の許可とか医者の処方を必要とするものではなく、一人一人の固有の権利である。適正にバランスのとれた食事が健全な人間をつくりあげるのである。

引用文献

次のページ 第17章 身体的変形の原因
目次に戻る

ジャーニー・トゥ・フォーエバーの小さな農場図書館へ戻る



地域の自立 | Rural development
都市農園 | 有機菜園のススメ | 土をつくる | 小さな農場 | バイオ燃料 | 太陽熱コンロ
森と土と水と | 世界の種子 | Appropriate technology | Project vehicles

日本語トップ | ホームページ(英語) | メディア掲載とコメント集 | 手づくり企画の紹介
プロジェクト | インターネット | 教育企画 | サイトマップ | メールを出す

教育・啓蒙を目的とし(商業活動を除く)、出典事項を明記した部分的コピーやリンクはご自由にどうぞ。ただし第三者による情報の独占を防ぐため、別途明記されていない限りこのサイト上のオリジナル素材の著作権は下の著者が所有します。サイト上の情報は各個人の自己責任のもと活用して下さい。
(c) Keith Addison and Midori Hiraga
手づくり企画「ジャーニー・トゥ・フォーエバー」<http://journeytoforever.org/jp/>

ジャーニー・トゥ・フォーエバーを応援してください!
今後ともプロジェクトを進めていくためにご支援いただけましたら幸いです。ありがとうございました。